歪な家族だけどそれでも幸せ
帰省
お盆なので帰省をしている。迎え盆は決まってわたしが母方の祖母について、祖父の魂を迎えに行く。そして帰ってきて、タイミングが合えば家族と父方の家系の祖先たちの霊を迎えに行く。送り盆は、行ったり行かなかったり。年々親族の集まりは悪くなり、お盆の行事は形骸化しつつあるけれど、それでもそれなりに毎年続けている。
そんな中で、暇つぶしに本屋に行ったら嘘つきみーくんと壊れたまーちゃんの11巻が売っていた。このシリーズは不穏なタイトルの通り、中々にぶっ飛んだ内容で、暴力的なシーンも多くてキツイし辛いけど、すごくストーリーが面白い。叙述トリック満載でミステリ好きの心を擽ぐるし、文章の感じも好きだ。実家を出る前のことだからもう5年か6年前になるのか。一気に集めて貪るように読んだのを覚えている。 その、新刊で、しかも10巻までの主人公の子供たちの話だというので即座に購入した。
嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん11 ××の彼方は愛 (電撃文庫)
- 作者: 入間人間,左
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2017/06/09
- メディア: 文庫
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※ここから先ほんのちょっとだけネタバレします。作品ファンでネタバレ一切NGの方はご覧にならないでください。
実家での話題
ところで、話は帰省に戻るが、実家でわたしの仕事の話題が出ることはほとんどない。普通なら「最近仕事はどう?」くらい聞きそうなものだけど。
でも今日、こんなことを聞かれた。珍しく。
「旅行はあんまりいかないの?」
わたしはこう答えた。
「最近いかないなぁ」
最近は舞台三昧で旅行の数は随分減った。とはいえ箱根や大阪くらいまでならちょこちょこ行っている。同性の恋人との旅行や舞台関連の遠征なので実家にお土産を買って帰ることもあまりしていなかった。面倒になって行っていないことにした。
「大きな旅行ってシンガポールくらいか」
そう言われて驚いた。大学の卒業旅行の話だ。さすがにその後いくつもの旅行に行っていたしお土産だって買って、写真を見せながら旅行の話をしたものもあるはずだった。母の中でなかったことにされているいくつかの旅行。それは恋人と行った沖縄や東北の旅行、そして母の望まない就職先で社員旅行としていった香港や北海道。
指摘すれば母は「そっかぁ」と言って曖昧に笑った。それらの出来事は母の頭の中で棚上げされていて、言われないと思い出さないのだ。もしかしたらわたしが今恋人と、友人とのルームシェアと偽って二人暮らししていることすら記憶から消去されているかも。
人間なんて薄情なもので自分の都合のいい記憶ばっかり覚えて生きているものだなぁと思った。その旅行がどれだけわたしの人生の中で大切な思い出だったとしても、彼女の中ではなかったことにされている。そして不器用な父も私から話す内容以上のことを聞こうとすることはないから、多分その旅行の意味や重要性はわからないだろう。
でもそれでいい。それでだって家族はやれる。わたしの大切なものはわたしの中でしっかり守りながら、家族ともそれなりに関係を続けていける。わたしなりに家族のことを大切に思っているから、表面的な家族関係だって、今はこのままでいい。飼っている猫の話や、母の仕事の話や、親戚の子供の話なんかをしながら、適当にやり過ごす。一緒に時間を過ごせればそれでいい。
嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん11巻
これを極端にしたものが、みーまーの新刊での、枝瀬あゆとその家族のあり方だろう。あゆは深く傷ついた記憶を消しながら生きる。大切な妹の存在すら見えなくして。
それでもラストの、四世代が揃った家族の姿はみんな幸せそうだった。歪なあり方だって、生きていけるし幸せになれる。他人から見てそのあり方が寂しいものや悲しいものや辛いものに見えたってさ、そんなの本人たちには関係ない。幸せとは主観的なものだ。
たとえばわたしが親より早く死んでわたしの日記やブログを読んだ母や父が、彼らの知らなかったわたしの人生を知ったとして、その時彼らはどう思うのかな、とか。同性の恋人のことをカミングアウトしたらどうなるのかな、とか。思わなくもない。本当のことを隠さずにいられたら楽なのにと思うこともある。幸せの中にだって少しの苦味は潜む。
それでもなんとか、今日も「家族」を続けてゆく。すきま風を吹かせながら。それぞれの「幸せ」をそれなりに守りながら。「家族」だって「わたし」だって人間だからさ。すべてをわかりあえなくたって仕方ないもの。わたしの人生を自分の思うように作りたがった母のことを恨む気持ちももちろんある。でも許したい気持ちもある。わたしの生き方や考え方を理解してほしい気持ちもある。いつかちゃんと話す日が来るかもしれない。でも今はただ、このまぜこぜのその気持ちをそのまま受け入れて、変えようとする勇気がわくまで、この瞬間の「幸せ」を大切に生きようと思う。
ではまた!
(「家族とはこうあるべき」と思いすぎて苦しんでいた昔のわたしに「すきま風家族だっていい」と教えてくれた一冊。家族問題、特に母娘関係で苦しい思いをしている方は是非読んでみてください。↓)