七転び八起き

ハロプロと、恋人のキツネさんとの同性同士の同棲生活。

『三人どころじゃない吉三』を想う

三人どころじゃない吉三、東京公演が終わりましたね。なんだか消化しきれない気持ちを抱えながら日々を過ごしています。

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少年社中 第32回公演 | 三人どころじゃない吉三

 

ネタバレ注意な感想第二弾です。

 

感想第二弾

もうものすごく、原作を見たい。原作者の二代目河竹新七は、三人の同じ名前の泥棒、お嬢吉三、お坊吉三、和尚吉三が巡り合って義兄弟の契りを交わし、因果が巡り巡って、破滅への道を駆け抜ける様を描いた。 ピカレスクもののしびれるかっこよさ、散り際の美しさや死のロマン、きっとそういうものがたくさん詰まった舞台なのだと思う。シネマ歌舞伎で原作を見た友人は、三人どころじゃない吉三と同じく、雪が大盤振る舞いで降り続く美しい舞台だって言っていた。すごくすごく見たい。

今回、三人どころじゃない吉三では、原作を踏襲しつつも、後日談というかなんというか、原作をひっくり返すような仕掛けが待ち受けている。地獄へ落ちたお嬢吉三が、三人の吉三がお互い殺しあう悲劇的な最後を避けるために何度も時を遡ってやり直す。やり直させているのは、奪われた刀、庚申丸。…と思いきや、実は地獄の閻魔様が自分の罪に苦しみ、三人吉三に憧れて、残酷な結末を変えるために繰り返しをさせていた。

その脚本、演出をした毛利さんの想いは、一体どこにあったのだろう?魅力的なんて言葉じゃ表しきれないくらいカッコいい主人公三人が凄惨な最期をとげるのが、忍びなかったのかしら?それとも、何か根底に思想があるのかしら?

わからない。わからないけれど、毛利さんはどこか性善説的に人を見ているところがあるなと思う。過去作品をいくつか見ても、そう思う。悪いやつでも、悪いところだけじゃあない。ちゃらんぽらんに見えても、どこか筋が通ってる。可愛い面だって、情にもろい面だって、ある。人間のそういう複雑さを、毛利さんは愛してるような気がする。そして、どんな人間だって、幸せになる権利も可能性もあるんだって、そう考えてるんじゃないかしら。妄想だけど。

 

吉三で感じた登場人物の人間らしさ

例えば。

お嬢吉三は、可愛いなりをして、夜鷹から100両をぶんどって川につき落とすわ、息をするように金貸しを脅して庚申丸を奪うわ、もう散々なやりよう。でも、拐かされた自分の本当の父親に偶然出会って、取り乱してついつい刀を振り回しちゃうところは、なんだかすごく人間らしい。死んでからも、人を殺したくないし人が死んでくのを見たくない刀の化身である庚申丸を気に入って、自分のためだけじゃなく、庚申丸のためにも一肌脱ごうとするし。閻魔が自分たち三人吉三に憧れてたって告白したあと、「嬉しいじゃねぇか。閻魔様が俺たちのことを気にかけてくださってたなんて」なんてことを言うし、幸せになることを諦めようとしてる閻魔に、諦めさせない。男気あって、もーかっこいいのよ。

 お坊だって和尚だって、彼らが動くのは誰かのため。和尚なんて、冗談にしちゃったけど、「善人になりたいんだ」って言っていた。(善人になりたいって言った直後に舞台上で雪が降り出したのが印象深かった)

「俺も昔は悪党よ」の台詞が似合ってるイケオジ、土左衛門伝助だって悪党だけじゃない。今や娘を心配するいいパパ。原作では土左衛門を引き上げて弔ってるっていう人物像らしいし、改心してるのよねぇ。

刀であるはずの庚申丸だって、みんなと同じで「吉三」の名前をつけられたら、嬉しそうにニコニコしちゃうし。ずーっと仏頂面だったのにね。

こんな感じで、みんなみんな、人間くさい。もうみんな、大好き。ほんとに、毛利さんがこんな風にみんなを描いてくれて、その上、みんなを幸せにしてくれて、本当にありがとうって思った。

 

改めて、思うこと。演劇の凄味。

 

他にもたくさん、感じたことはいろいろあるし、ストーリーや演出でわかんないことも実はいっぱいあって、言葉にするとこぼれ落ちるものが多そうなのだけど。改めて、感じたことを頑張ってまとめてみる。

罪のないひとはいない。でも、良いことをしない人もいない。誰一人として脇役はいない。みんながみんな、自分の人生を必死で生きてる。そういう一人一人が集まって、関わり合いながら暮らしている。そうして今の幸せは、周りの人のちょっとした情や親切や、なにやらに確かにつながっている。生かされている。三人どころじゃない吉三は、そんなことを感じさせてくれる物語だった。言葉にしちゃうと当たり前で、なんだか説教くさく聞こえるかもしれないけど、わたしが生きているという、ただそれだけのことがなんだか不思議で愛しく思えてくるのだ。

こんな風に、言葉にするとクサくなっちゃうことを押し付けがましくなく伝えてしまう、演劇ってすごいなぁ。きっと受け取り方も受け取った内容も、人それぞれ違うと思うんだけどさ。でも、すごい。いい作品だったなぁと思った。