転勤と残業と、同性パートナー
同性パートナーがいることを隠すやりにくさ
転職活動をしながら、なにかと、同性パートナーがいることを隠すことにやりずらさを感じた。例えばこんな場面。
・キャリアプランに関する話をする時(近い将来、彼女の実家近くで暮らす計画をしているので御社の◯◯支店への異動は希望すれば可能ですか?なんて聞けない。そして結婚、出産を含まないキャリアプランの説明をすると妙な顔をされる)
・最初の職業を選んだ理由を尋ねられる時(女同士のカップルだと収入が低くなりがちだし老後一人かもしれないからバリバリ稼げる仕事を選びました!という本当の理由が言えない)
・転勤や長時間労働の可不可について尋ねられる時(パートナーと同棲してて家事負担はほぼ平等なので、転職も長時間労働もできればしたくないです、とは言えない)
面接や転職エージェントさんとの面談の場でカミングアウトすることは、あまり現実的じゃない。相手との関係性がまだできてない中では、カミングアウトが悪い方向に働いて機会損失につながることを考えないわけにいかないから。
特に私は、転勤も長時間労働もしたくないので、したくない理由を話す場面を想像して悩むことが多かった。
同性パートナーがいる人が転勤・長時間労働について交渉する時、陥ると思われる3つのパターン
同性パートナーがいる人にとって、転職時だけに限らず、キャリアプランや転勤や労働時間管理に関する話を会社でする場合、パートナーがいること自体隠すか、パートナーの性別を隠す(もしくは偽る)か、カミングアウトするかという選択肢があると思われる。ちなみに私はどの戦略もやってみたことがあるけれど、全部モヤモヤした。
① 独り身ということにする
⇒どこでも転勤OK、バリバリ残業OKだと思われる
⇒独り身で「転勤(残業)したくありません」と意思表示すると絶対に「なんで」と聞かれる。そして答えに詰まって怪しまれる。聞かれない場合でも「変わった人だ」と思われる。会社によっては「出世したくありません」と同義にとらえられる。
② 「パートナーがいる」という言い方をする(パートナーの性別を隠す)
⇒「結婚はいつごろ?」とか「彼氏はどんな人?」とか詮索されてさらなる嘘を重ねなければならなくなる
③ カミングアウトする
⇒「正式な結婚じゃないんだからor子供いるわけじゃないんだから転勤くらい大したことないでしょ。相手を説得できないの?」となる。
どうあがいても、男女結婚の3倍くらい頑張って転勤や残業したくない理由を説明しないといけないように思える。何かしら隠したり嘘をついたりする前提で、こういうことに頭使わなきゃならないのは結構非生産的だよなぁ。
そもそもなんで、転勤や長時間労働を「結婚・出産・育児」以外の理由で断れない会社が多いのか?
そもそもが、日本企業は長期雇用を保証する代わりに自分の意志の関係ない転勤・配属や、長時間労働を「当たり前」としてきた会社が多い。特に独身は「どこでも異動させて問題ないだろう」「残業バリバリするのが普通だろう」と思われている風潮がある。
逆の言い方をすると、「結婚していること」「手のかかる年の子供がいること」が転勤と長時間労働回避の条件になっている。つまり、「子供がまだ小さいんで…」とか「結婚したばかりなんで…」というと配慮されることも少なくない。(とくに女性の場合。男性は問答無用の場合もあると聞く)
「結婚していること」が回避の条件になるのなら、同性のパートナーがいる人は結婚と同等のパートナーシップがあったとしても企業にとってはずっと都合のいい「転勤・長時間労働できる要員」とみなされるということじゃないかと思う。
日本にはまだ同性カップルが「結婚」する制度がないから。…なんてことだ!
「彼女(同性パートナー)がいるから転勤したくありません」と「結婚してるから転勤したくありません」は同列に響かないのだ。
実際私は、前の会社ではカミングアウトしていたけれど「スイはいいよな。ほかの女の子と違って結婚も出産も旦那の転勤もなく働き続けてくれるから」と陰で言われていたと聞いた。ちなみに「働き続けてくれる」には案に「長時間労働で」という意味も含まれる。
そこで「パートナーとこういうライフプランを描いているのでキャリアや働き方をこうしたいんです」と主張しても、「結婚じゃないでしょ」「彼女だったら、いずれ別れる可能性あるよね」「彼女、説得できないの?」という風に言われたこともある。たしかに結婚はしてないけどそれが男女間の結婚より軽いかっていったらそんなことないし、同性パートナーだって、お互いに家事を押し付けていいわけじゃない。一緒に暮らしてたらそりゃ早く帰りたいんだけどなー。
根底にあるもの
でもよくよく考えたら、これって異性愛者でも大して変わらないか。未婚だけど転職も長時間労働もしたくないっていうイマドキの若者と同じ不自由さだよね。そこに更に同性パートナーがいることを隠す不自由さがのっかる感じだ。
根底にあるものは、「日本的労働観」と「多様性受容力の低さ」なのだろうと思う。
・パートナーとは、女性と男性の間柄でありその最終形は結婚だ。結婚以外の形態は正式なパートナーシップと言えない
・仕事をプライベートより優先するのは当然のこと
・転勤や配属は会社の都合で行ってよい
・女は家事・育児をするものだから結婚・出産をしたら時間的にも働く場所的にも配慮しなければならない(逆に言えばライフイベント期の女性以外は配慮しなくていい)
こういう考え方が大概の人に刷り込まれている。
もし、
・男女間でないパートナーシップもある
・プライベートは仕事と同じくらい大切
・転勤によって、結婚していなくとも、人間関係に影響が出ることは大いにある(介護してる人なんかもそうだよね)
ということを管理職や人事がわかってくれていて、そのうえで交渉できたらもっとやりやすいのだろうに…。
実はカミングアウトしてみた相手の中で、二人だけものすごくフラットに、私のパートナーとの関係を尊重して相談に乗ってくれた方がいた。こんな人がもっともっと増えていくといいと思う。
LGBT研修も増えてきているみたいだけど、少なくとも採用や配属に関わる人へのトレーニングの中で、こういう悩みを持つ人がいることを知ってもらえる仕組みがあるといい。企業にとっても、優秀な人を採用する機会を逃しているかもしれないのだもの。
それから、転勤や長時間労働をしたくない同性パートナーのいる人自身が、今、できることがあるとしたら、
・転勤のない小さい会社で働く
・残業のない会社を選ぶ
・日本的価値観の薄い、外資系企業で働く
・自営業をする
・運良く理解ある担当者に出会うことを願ってカミングアウトする。万一理解のない人であった場合、懇切丁寧に事情を説明し交渉する
というところか。
自分が居心地の良い働き方をするために、当分は私たち自身が、やりにくさを感じながらも足掻いていかないといけないのかもしれない。
ゆくゆくは、パートナーがいたっていなくたって、パートナーが同性であったって異性であったって、ストレスを感じることなく、「私はこうしたいの」がまっすぐ言える世の中になってほしい。